
自分の悩みなんて、誰にも言えないよ……
同じような境遇の人と話せたら、少しは気持ちが楽になるかもしれないけど……



もしかして、ひとりで悩みを抱えていませんか?
大丈夫、あなたがまだ出会っていない「同じ悩みを抱えた仲間」が実はたくさんいます。
一緒に、少しずつ前に進んでいきましょう!
現代社会は、時に私たちを孤独にさせ、一人で問題を抱え込んでしまう状況を生み出しがちです。しかし、もしあなたと同じような痛みや困難を経験した「仲間」がそばにいて、その経験を分かち合い、支え合えるとしたら、どうでしょうか。
この記事では、近年ますますその重要性が注目されている「ピアサポート」について、基本的な意味や定義から、具体的な方法、期待される効果、さらには実際に活動する上での注意点まで、網羅的に解説していきます。
ピアサポートの基本|意味や定義を理解しよう
ピアサポートという言葉を耳にしたことはあっても、具体的にどのようなものなのか、詳しく知らないという方もいらっしゃるかもしれません。
このセクションでは、ピアサポートを理解する上で欠かせない基本的な知識を紐解いていきます。まず、ピアサポートがどのような考え方に基づいているのか、公的にはどのように定義されているのか、そして誰が対象となるのか、さらには専門的なカウンセリングとは何が違うのか、といったポイントを明らかにしていきます。
- 基本概念:ピアサポートは「対等な関係」と「経験の共有」が核となる。
- 公的定義:厚生労働省もその意義を認め、普及を後押ししている。
- 対象者:様々な困難や課題を抱える人々が対象となり得る。
- 他支援との違い:専門家によるカウンセリングとは異なる特徴と役割がある。



それでは、詳しく見ていきましょう!
ピアサポートの基本概念は「対等な関係と経験の共有」
ピアサポートを理解する上で最も大切なのは、その根底にある「対等な関係性」と「経験の共有」という二つのキーワードです。
「ピア(peer)」とは、英語で「仲間」や「同等の立場の人」を意味します。
つまり、ピアサポートとは、同じような課題や困難、病気や障害、あるいは辛い体験をした仲間同士が、互いの経験を分かち合い、支え合う活動のことを指します。
ここでの「支え合い」は、専門家が一方的に支援を提供するような上下関係ではなく、あくまでお互いが対等な立場で関わり合うことが前提です。過去に困難を乗り越えた経験を持つ人が、現在同じような状況にいる人の話に耳を傾け、自らの経験を語ることで、共感が生まれ、孤独感が和らぎ、希望や勇気が湧いてくることがあります。
また、支援する側も、自らの経験が誰かの役に立つことを通じて、自己肯定感が高まったり、新たな気づきを得たりすることがあります。
このように、お互いにとってプラスになる関係性がピアサポートの大きな特徴と言えるでしょう。
厚生労働省はピアサポートをどう定義している?
ピアサポートの重要性は、国も認識しており、その普及を後押ししています。例えば、厚生労働省は、精神障害分野におけるピアサポートについて、以下のように説明しています。
「精神障害のある人が、自らの障害や病の経験を活かして、他の精神障害のある人の悩みを聞いたり、様々な情報を提供したり、仲間として共に何かをしたりすることなどを通じて、他の精神障害のある人の課題解決や自己実現等を支援する取組」
(出典:厚生労働省 ピアサポート)
この定義は精神障害分野に特化したものですが、ピアサポートの基本的な考え方は、がん患者支援、難病支援、依存症からの回復支援、ひきこもり支援など、他の多くの分野でも共通しています。
重要なのは、「経験を活かす」「仲間として共に行動する」「課題解決や自己実現を支援する」といった点です。
公的な機関がこのように定義し、その活動を支援していることは、ピアサポートが社会的に認知され、その効果が期待されている証と言えるでしょう。
ピアサポートはどんな人が対象?
ピアサポートの対象となるのは、何らかの共通の課題や困難、経験を持つ人々です。その範囲は非常に広く、具体的には以下のような方々が挙げられます。
- 精神疾患や精神的な課題を抱える方
統合失調症、うつ病、双極性障害、不安障害、摂食障害などの当事者やそのご家族。
(関連情報:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」総合サイト) - 発達障害のある方とそのご家族
ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)などの当事者や、その特性を理解し支えたいと考えるご家族。
(関連情報:厚生労働省「発達障害情報・支援センター」、文部科学省「特別支援教育」) - 身体的な病気や障害のある方
がん、難病、慢性疾患、身体障害などの当事者やその介護者、ご家族。
(関連法規:障害者総合支援法、がん対策基本法、難病の患者に対する医療等に関する法律など) - 依存症の問題を抱える方
アルコール、薬物、ギャンブルなどの依存症からの回復を目指す当事者やそのご家族。
(関連情報:厚生労働省「依存症対策」) - ひきこもり状態にある方やそのご家族
(関連情報:厚生労働省「ひきこもり支援推進事業」) - 社会的な困難やマイノリティ性を抱える方
LGBTQ+、外国人、ひとり親家庭の方など。
(関連情報:法務省「人権擁護局」、各自治体の相談窓口) - その他、特定のライフイベントや経験を共有する方
子育て中の親、介護者、グリーフケア(大切な人を亡くした悲嘆からの回復支援)を必要とする方など。
このように、ピアサポートは特定の病気や障害に限らず、人生における様々な局面で生じる困難や生きづらさを共有する人々にとって、有効な支え合いの形となり得ます。
大切なのは、「同じような経験をした仲間」という共通項です。
ピアサポートとカウンセリングは何が違う?
ピアサポートとよく比較されるのが、専門家による「カウンセリング」です。どちらも心のサポートを行う点では共通していますが、その性質には明確な違いがあります。
これらの違いを理解しておくことは、自分や周りの人がどのようなサポートを求めているのかを考える上で役立ちます。
主な違いを以下の表にまとめました。
比較項目 | ピアサポート | カウンセリング |
---|---|---|
担い手 | 同じような経験を持つ仲間(ピアサポーター) | 専門的な訓練を受けた専門家(臨床心理士、公認心理師など) ※公認心理師は国家資格です。 |
関係性 | 対等な関係、仲間意識 | 支援者と被支援者という専門的関係性 |
主なアプローチ | 経験の共有、共感、分かち合い、ロールモデルの提示 | 心理学的な知識や技法に基づく傾聴、洞察の促進、問題解決支援 |
焦点 | 共感による孤独感の軽減、希望の発見、エンパワーメント | 心理的な問題の明確化、症状の軽減、行動変容 |
知識・スキル | 自身の経験、傾聴スキル、共感力(専門資格は必須ではないことが多い) | 専門的な知識、カウンセリング技法、倫理観(専門資格が必要) |
このように、ピアサポートは「経験」と「共感」を軸にした水平的な支え合いであるのに対し、カウンセリングは「専門知識」と「技法」を軸にした専門的な援助と言えます。
両者は対立するものではなく、むしろ相互に補完し合う関係にあります。例えば、カウンセリングを受けながら、並行してピアサポートグループに参加することで、より多角的なサポートを得られるケースも少なくありません。
どちらが良い・悪いではなく、それぞれの状況やニーズに合わせて適切なサポートを選択したり、組み合わせたりすることが重要です。
なぜ今ピアサポートが注目されるのか?
ピアサポートの考え方自体は古くから存在していましたが、近年、その重要性があらためて認識され、様々な分野で積極的に取り入れられるようになってきました。では、なぜ今、ピアサポートがこれほどまでに注目を集めているのでしょうか。その背景には、現代社会が抱える問題や、人々の価値観の変化が深く関わっています。ここでは、ピアサポートが注目される主な理由を3つの視点から探っていきましょう。
このセクションで解説するポイントは以下の通りです。
- 孤独・孤立への対応:現代社会の繋がりが希薄化する中で、安心感を与える支えとなる。
- 当事者主体の回復:「エンパワーメント」と「リカバリー」という考え方が広まり、その実現に効果的。
- 支援の多様化:専門家だけに頼るのではなく、当事者同士が支え合うことの価値が再認識されている。



これらの理由を深掘りすることで、ピアサポートの意義が見えてきますよ。
現代社会の孤独・孤立に寄り添う支えとなり、安心感につながるため
現代社会は、インターネットやSNSの普及により、表面的には多くの人と繋がっているように見えても、実際には深い孤独感や孤立感を抱える人が増えていると言われています。
核家族化の進行、地域コミュニティの希薄化、競争社会におけるストレスなども、こうした状況に拍車をかけている要因と考えられます。
このような中で、ピアサポートは、「ひとりじゃない」という安心感を与えてくれる貴重な存在です。
同じような悩みや苦しみを経験した仲間と出会い、自分の気持ちを率直に語り、共感を得られる場は、孤独感を和らげ、精神的な安定につながります。特に、誰にも理解されないと思っていた辛い経験を共有できることは、大きな救いとなるでしょう。
専門家による支援とは異なる、仲間同士だからこそ生まれる温かい繋がりや安心感が、ピアサポートが求められる大きな理由の一つです。
「エンパワーメント」と「リカバリー」の両立への効果が期待されるため
近年、医療や福祉の分野では、「エンパワーメント」と「リカバリー」という二つの概念が非常に重要視されています。これらは、ピアサポートが注目される大きな理由とも深く結びついています。
- エンパワーメント(Empowerment)とは?
先ほども少し触れましたが、これは、人々が自分自身の力や可能性に気づき、自信を取り戻し、主体的に自分の人生や問題に取り組んでいく力を得ることを意味します。ピアサポートの場では、自分の経験が誰かの役に立ったり、仲間から勇気をもらったりすることで、無力感から抜け出し、「自分にもできることがある」という感覚(自己効力感)が高まります。これがまさにエンパワーメントです。 - リカバリー(Recovery)とは?
これも先ほど解説しましたが、病気や障害、困難な状況から、単に症状がなくなること(治癒)を目指すだけでなく、その人自身が希望を持ち、自分らしい意味のある人生を再び主体的に歩んでいくプロセス全体を指します。ピアサポートでは、同じような経験をした仲間が、困難を抱えながらも前向きに生きている姿(ロールモデル)に触れることで、「自分もああなれるかもしれない」という希望を見出しやすくなります。また、仲間との支え合いの中で、自分なりのリカバリーの道筋を描いていくことができます。
ピアサポートは、このエンパワーメントとリカバリーの両方を同時に促進する効果が期待できるため、多くの分野で注目されています。当事者自身が持つ力を信じ、主体的な回復を支えるという点で、現代の支援のあり方と非常に親和性が高いのです。
支援のかたちが多様化し、専門家に頼らず支援し合える可能性が高まっているため
かつては、困難を抱えた人への支援というと、医師やカウンセラー、ソーシャルワーカーといった専門家が中心的な役割を担うというイメージが強かったかもしれません。もちろん、専門家による支援は非常に重要であり、不可欠なものです。
しかし、近年では支援のあり方がより多様化しており、専門家だけに頼るのではなく当事者自身が持つ力や経験を活かした支援の形にも注目が集まっています。
専門的な資格や知識がなくても、自身の経験に基づいて他者を支えることができるという考え方は、多くの人にとって希望となります。また、支援を受ける側にとっても、専門家には話しにくいことや、経験者だからこそ理解してもらえるニュアンスなどを、安心して語れる場となります。
このように、従来の専門家中心の支援モデルを補完し、より身近でアクセスしやすい、多様な支援の選択肢の一つとして、ピアサポートの可能性がますます高まっているのです。社会全体で支え合うという意識も育まれていくことでしょう。
ピアサポートがもたらす5つの効果・メリット
ピアサポートは、参加する当事者にとってはもちろんのこと、支援する側や、さらには社会全体に対しても、多くの肯定的な影響をもたらす可能性を秘めています。では、具体的にどのような効果やメリットが期待できるのでしょうか。
ここでは、ピアサポートがもたらす主な恩恵について、多角的な視点から解説していきます。このセクションでご紹介する主な効果・メリットは以下のとおりです。
- 精神的な安定:孤独感が和らぎ、安心感が得られる。
- 自己肯定感の向上:自分の価値を再認識し、希望を持てるようになる。
- 問題解決能力の向上:主体性が回復し、困難に立ち向かう力がつく。
- 社会との繋がり:新たな人間関係が生まれ、社会参加への意欲が高まる。
- 社会全体への好影響:相互理解が深まり、より寛容な社会へと繋がる。



これらの効果の理解が少しでも深まれば、ピアサポートの価値をより深く感じていただけるはず!
孤独感が和らぎ、心が安定する
ピアサポートに参加することで得られる最も大きな効果の一つは、孤独感の軽減と精神的な安定です。同じような痛みや苦しみを経験した仲間と出会い、「自分だけがこんなに辛い思いをしているわけではないんだ」と感じられることは、大きな慰めとなります。
誰にも理解されないと思っていた感情や経験を安心して話せる場があること、そしてそれを共感的に受け止めてもらえることは、「一人じゃない」という強い安心感につながります。
また、仲間が困難を乗り越えていく過程を見たり、その経験談を聞いたりすることで、将来への不安が和らぎ、精神的な落ち着きを取り戻せることも少なくありません。
ピアサポートは、心のセーフティネット(安全網)として機能し、参加者の精神的な安定に大きく貢献してくれるのです。
自己肯定感が高まり、希望が見えてくる
困難な状況に直面していると、しばしば「自分はダメな人間だ」「もう何もできない」といった否定的な考えに囚われ、自己肯定感が低下してしまうことがあります。
しかし、ピアサポートの場では、自分の経験が誰かの役に立ったり、仲間から肯定的なフィードバックをもらえたりすることで、失いかけていた自信を取り戻すきっかけが得られます。
例えば、過去の辛い経験を語ることで、他の参加者から「話してくれてありがとう。勇気をもらえた」といった言葉をかけられるかもしれません。また、自分がアドバイスをするのではなく、ただ経験を共有するだけでも、相手にとっては大きな気づきや励ましになることがあります。
こうした経験を通じて、「自分にも価値があるんだ!」「自分も誰かの役に立てるんだ!」という感覚(自己有用感)が育まれ、自己肯定感の向上につながります。
自己肯定感が高まることで、未来に対する希望も自然と湧いてきます。
問題解決能力が向上し、主体性が回復する
ピアサポートは、単に慰め合うだけの場ではありません。仲間との対話や経験の共有を通じて、困難な状況を乗り越えるための具体的なヒントや知恵を得られることも大きなメリットです。
また、ピアサポートのプロセスでエンパワーメントされる、つまり自分の力に気づくことで、「自分で考えて行動してみよう」という主体性が回復していきます。他人に頼るだけでなく、自分自身の力で問題を解決しようとする意欲が高まり、実際に行動に移せるようになるのです。
ピアサポートは、参加者が問題解決能力を高め、人生の主導権を取り戻すことを後押ししてくれます。
新たなつながりが生まれ、社会参加への意欲も高まる
病気や障害、その他の困難な状況によって、社会とのつながりが薄れてしまったり、孤立感を深めてしまったりするケースは少なくありません。ピアサポートの場は、そうした人々にとって、新たな人間関係を築き、社会とのつながりを再構築する貴重な機会となります。
同じような経験を持つ仲間との出会いは、安心感や親近感を生みやすく、自然な形で友情が育まれることもあります。そして、仲間との繋がりを通じて、「もう一度社会と関わってみよう」「何か新しいことを始めてみよう」といった社会参加への意欲が湧いてくることも期待できます。
ピアサポートグループが、地域活動への参加のきっかけになったり、就労への足がかりになったりする事例も見られます。
このように、ピアサポートは、個人の内面的な変化だけでなく、社会との接点を取り戻す上でも重要な役割を果たすのです。
社会全体にも良い影響。その具体的なメリットとは
ピアサポートの効果は、参加する個人だけでなく、社会全体にも広がっていきます。具体的には、以下のようなメリットが考えられます。
- 相互理解の促進とスティグマの軽減
ピアサポート活動が広まることで、様々な困難を抱える人々への理解が深まります。当事者の声が社会に届きやすくなることで、誤解や偏見(スティグマ)が減り、よりインクルーシブな(誰もが受け入れられ、尊重される)社会の実現に繋がります。
(関連:法務省「人権啓発活動」) - 医療・福祉コストの削減の可能性
ピアサポートによって当事者の精神状態が安定し、主体的な問題解決能力が高まることで、専門的な医療や福祉サービスへの過度な依存が軽減される可能性があります。早期の介入や予防的な効果も期待できるため、長期的に見れば医療・福祉コストの削減に貢献するかもしれません。
(この点については、今後の研究や実証が期待されます。) - 地域コミュニティの活性化
ピアサポートグループは、地域の支え合いのネットワークの一つとして機能します。当事者同士の繋がりが地域に根付くことで、孤立を防ぎ、地域コミュニティ全体の活性化に貢献することが期待されます。
(関連:厚生労働省「地域力強化検討会」などの議論) - 新たな社会資源の創出
ピアサポートを通じてエンパワーメントされた当事者が、今度は自らピアサポーターとして活動したり、新たな支援グループを立ち上げたりするなど、社会に貢献する新たな人材(社会資源)が生まれることもあります。
ピアサポートは、個人の回復を支えるだけでなく、より温かく、理解し合える社会を築いていくための重要な鍵となり得ることがわかっていただけたのではないでしょうか?
知っておきたいピアサポートの5つの課題・注意点
ピアサポートは多くのメリットをもたらす素晴らしい活動ですが、その一方で、いくつかの課題や注意点も存在します。これらを事前に理解しておくことは、ピアサポートをより安全かつ効果的に活用し、また運営していく上で非常に重要です。
ここでは、ピアサポートに関わる際に心に留めておきたい主なポイントを解説します。取り上げる主な課題と注意点は以下のとおりです。
- 万能ではないことの理解:ピアサポートにも限界があり、デメリットが生じる可能性も認識する。
- 支援者側の負担:ピアサポーターが燃え尽きてしまわないための対策が必要。
- 不健全な関係性のリスク:共依存などに陥らないよう、適切な距離感を保つ。
- 質の確保:効果的なピアサポートを提供するための質の担保が課題となる場合がある。
- 倫理的な問題への対応:守秘義務やプライバシーなど、倫理的な配慮が不可欠。



課題や注意点をあらかじめ知っておくことで「こんなはずじゃなかった……」を回避することができます。
ピアサポートの限界とデメリットを理解する
ピアサポートは多くの可能性を秘めていますが、決して万能な解決策ではありません。
ピアサポートは専門的な治療やカウンセリングの代わりになるものではないことを理解しておく必要があります。
例えば、精神疾患の急性期で専門的な医療介入が必要な場合や、深刻なトラウマを抱えていて専門的な心理療法が求められる場合には、ピアサポートだけでは対応が難しいことがあります。このような場合は、医療機関や専門家との連携が不可欠です。
また、ピアサポートの場で、かえって辛い気持ちが増幅されたり、他の参加者のネガティブな話に引きずられてしまったりする可能性もゼロではありません。グループの雰囲気や運営方法によっては、特定の人が話しすぎてしまったり、逆に話しにくい人がいたりすることもあるでしょう。
こうしたピアサポートの限界や潜在的なデメリットを認識し、過度な期待を抱きすぎないことも大切です。もし参加してみて合わないと感じたら、無理に続ける必要はありません。オンラインカウンセリングのような手段の活用も視野に入れても良いでしょう。
支援者自身がバーンアウトしないために
ピアサポーターとして活動する人々は、自身の経験を活かして他者を支えたいという強い思いを持っています。しかし、その熱意ゆえに、過度な負担を抱え込み、心身ともに疲弊してしまう「バーンアウト(燃え尽き症候群)」に陥るリスクがあります。
特に、共感力の高い人ほど、相手の辛さに深く寄り添いすぎてしまい、自分自身の心のバランスを崩してしまうことがあります。
バーンアウトを防ぐためには、ピアサポーター自身が以下のような点に気をつける必要があります。
- 自分自身のケアを怠らない:十分な休息を取り、自分の趣味やリフレッシュの時間を持つ。
- 無理のない範囲で活動する:自分の限界を認識し、断る勇気も持つ。
- 一人で抱え込まない:他のピアサポーターや専門家(スーパーバイザーなど)に相談できる体制を作る。
- 適切な距離感を保つ:相手の問題と自分の問題を混同しないようにする。
ピアサポート活動を持続可能なものにするためには、支援する側の心の健康を守る仕組みづくりが非常に重要です。
共依存や不適切な関係を避けるには
ピアサポートは、対等な関係性に基づく支え合いですが、時にその関係性が不健全な方向へ進んでしまうリスクも指摘されています。
例えば、「共依存」の関係です。
共依存は、一方が過度に相手に依存し、もう一方がその依存に応えることで自己価値を見出すような、お互いにとって不健康な関係性を指します。
ピアサポートの場で、特定のメンバー同士が過度に密接になりすぎたり、支援する側が「自分がいないとこの人はダメだ」と思い込んだりするような状況は避けるべきです。
また、まれにではありますが、ピアサポートの場を利用して、個人的な利益を得ようとしたり、相手をコントロールしようとしたりする人が現れる可能性も否定できません。
こうした不適切な関係を避けるためには、グループ運営のルールを明確にしたり、参加者同士が互いに尊重し合えるような雰囲気づくりを心がけたりすることが大切です。
そして何よりも、適切な「バウンダリー(境界線)」を意識し、健全な人間関係を保つことが求められます。このバウンダリーについては、後のセクションで詳しく触れます。
ピアサポートの質はどう担保される?
ピアサポートの効果を最大限に引き出すためには、その「質」が重要になります。
しかし、ピアサポートは専門資格が必須ではない活動も多いため、どのようにしてその質を担保するのかという課題があります。質の低いピアサポートは、参加者にとって有益でないばかりか、かえって混乱を招いたり、傷ついたりする原因にもなりかねません。
質の高いピアサポートを確保するためには、以下のような点が考えられます。
- ピアサポーターの養成研修の充実:傾聴スキル、共感の示し方、ファシリテーション技術、倫理観などを学ぶ機会を提供する。
(厚生労働省や地方自治体でも、分野に応じたピアサポーター養成研修に関する情報提供や事業が行われることがあります。) - スーパービジョン体制の整備:経験豊富なスーパーバイザー(指導者・助言者)から、定期的にアドバイスやフィードバックを受ける機会を設ける。
- グループ運営のガイドライン作成:活動の目的、ルール、守秘義務などを明確にする。
- 参加者からのフィードバックの活用:活動内容を定期的に見直し、改善に繋げる。
ピアサポートを提供する団体やグループは、これらの点に留意し、質の向上に努める必要があります。
また、ピアサポートを受けたいと考える人も、どのような研修体制や運営方針を持っているのかを事前に確認することも一つの方法です。
近年では、例えば「Coursera」のようなオンライン学習プラットフォームで、心理学やカウンセリングに関連する基礎知識を学べる講座も見られます。直接的なピアサポーター養成ではありませんが、支援に関する知識を深める一助となるかもしれません。
- 心理的応急処置
- 傷害やトラウマについて、身体的な問題を超えた視点を学べる講座。RAPIDモデルを活用した緊急時の処置について理解が深まります。RAPID モデルは、個人と地域社会のレジリエンスを促進する上で効果的であることがわかっています。公衆衛生の場、職場・軍隊・信仰に基づく組織、大規模災害の場、さらには、事故・事件の心理的余波への対処など、身近な危機的出来事にも適用できます。
- 自殺予防
- 自殺の研究、予防、介入について、科学的に知識を深められる講座。実は自殺研究の分野は歴史が浅く、新たな事実が常にアップデートされています。用語の理解から、疫学の知識、自殺の歴史的・現代的理論に至るまで、経験的に裏付けられた予防と介入へのアプローチや希死念慮・自殺企図経験を持つ人々の生活体験から、立体的に理解を深めていけます。
- メンタルヘルスと病気の社会的背景
- メンタルヘルスと病気に対する従来の理解が、社会的態度・社会的発展からどのような影響を受けてきたかについて学べます。歴史的な背景の中で現代の精神保健がどのように実践されてきたかを知り、精神保健・精神疾患・精神保健サービスのさまざまな側面への理解を深めるとともに、取り巻く社会環境で起こっている事象との関連性にまで目を向けていけます。
倫理的な問題に直面した時の対処法
ピアサポート活動においては、様々な倫理的な問題に直面する可能性があります。例えば、以下のようなケースです。
- 守秘義務の取り扱い:グループ内で話された個人的な情報が、外部に漏れてしまった場合。(個人情報保護法などの関連法規の遵守も重要です。)
- プライバシーの侵害:他の参加者のプライベートな情報を詮索したり、本人の許可なく話題にしたりする行為。
- 利益相反:ピアサポーターが、その立場を利用して個人的な利益を得ようとする場合。
- 差別や偏見:特定の参加者に対して、差別的な言動や態度が見られる場合。(法務省人権擁護局の人権相談や啓発活動も参照ください。)
- 自傷他害のリスク:参加者の中に、自傷行為や他者への危害を加える恐れがある人がいる場合。
こうした倫理的な問題に直面した際には、まず個人の判断で安易に対応せず、所属する団体やグループのルール、あるいはスーパーバイザーに相談することが基本です。
特に、自傷他害のリスクなど、緊急性が高いと判断される場合は、速やかに適切な専門機関(医療機関、警察など)に繋ぐ必要も出てきます。
ピアサポーターは、倫理的な感受性を高く持ち、常に誠実な対応を心がけるとともに、一人で抱え込まずに適切な相談体制を確保しておくことが極めて重要です。
ピアサポートの具体的な方法と実践スキル
ここまでピアサポートの基本的な考え方や効果、課題について見てきました。
では、実際にピアサポートはどのように行われ、どのようなスキルが求められるのでしょうか?
このセクションでは、ピアサポート活動の具体的な進め方や、支援者として身につけておきたい心構えとスキルについて詳しく解説します。
このセクションでは、以下のポイントを深掘りしていきます。
- 活動プロセス:信頼関係の構築からエンパワーメントに至るまでの流れを理解する。
- 活動形態:個別支援からグループ活動、オンラインまで、様々な形を知る。
- 必要なスキル:受容・傾聴・共感といった基本的な姿勢から、より専門的な技術まで。



これらの知識は、ピアサポートをより豊かで実りあるものにするために役立ちます。
ピアサポート活動はどう進める?信頼関係から始まる支援プロセス
ピアサポート活動は、決まったマニュアルがあるわけではありませんが、一般的にいくつかの段階を経て進められることが多いです。その根底にあるのは、お互いの信頼関係です。
安心して自分のことを話せる場があってこそ、ピアサポートはその効果を発揮します。ここでは、代表的な支援のプロセスを4つのステップに分けて見ていきましょう。
これらのステップは、必ずしもこの順番通りに進むとは限らず、行ったり来たりすることもあります。大切なのは、相手のペースに合わせ、柔軟に関わることです。
ステップ1:安心できる場をつくる
ピアサポートの第一歩は、参加者が安心して心を開ける「安全な場」を作ること。ここに始まり、ここに終わると言っても過言ではない程度に最重要要素です。
具体的には、以下のような点が重要になります。
- リラックスできる雰囲気:威圧感がなく、誰もが自然体でいられるような空間づくり。
- プライバシーへの配慮:話の内容が外部に漏れないという安心感の確保(守秘義務の確認)。
(個人情報の取り扱いについては、個人情報保護委員会のガイドラインなども参考になります。) - お互いを尊重するルール:人の話を最後まで聞く、批判や否定をしない、アドバイスではなく経験を語る、といったグランドルールの設定と共有。
- ピアサポーターの態度:温かく、受容的で、非審判的な態度で接する。
「安全な場」があって初めて、参加者は自分の悩みや経験を率直に語り始めることができます。
ピアサポーターは、この場の「管理人」として、参加者全員が安心して過ごせるように常に気を配る必要があります。
ステップ2:心に寄り添い「聴く」技術
安心できる場が整ったら、次は相手の話に真摯に耳を傾ける「傾聴」が重要になります。「聴く」というのは、単に音として言葉を聞くのではなく、相手の感情や伝えたい本質を理解しようとする能動的な行為です。
具体的には、以下のようなスキルが求められます。
- 共感的な態度:相手の感情に寄り添い、「そう感じているんですね」と理解を示す。
- 受容的な姿勢:相手の話を良い悪いで判断せず、ありのまま受け止める。
- 適切な相槌やうなずき:「うんうん」「そうなんですね」といった言葉や動作で、聞いていることを伝える。
- 非言語的なコミュニケーションの活用:穏やかな表情、相手に体を向ける姿勢、優しい眼差しなども重要。
- 沈黙への配慮:相手が言葉に詰まっても、急かさずに待つ。沈黙も大切なコミュニケーションの一部。
- 質問の工夫:詰問調にならないよう、相手が話しやすいようなオープンな質問(例:「その時、どんなお気持ちでしたか?」)を心がける。
「聴く」技術は、ピアサポートの根幹をなすスキルであり、相手との信頼関係を深める上で不可欠です。
「ただ聴いてもらえた」という経験そのものが、大きな癒やしになることも少なくありません。
ステップ3:「私も同じだった」経験を分かち合う力
相手の話を十分に聴いた上で、ピアサポーター自身の「経験の分かち合い」が始まります。
単なる昔話や自慢話ではなく、相手の状況や感情に寄り添い、「私も同じような経験をしたことがある」「その気持ち、よく分かる」という共感と共に、自身の体験(成功体験だけでなく、失敗談やそこから得た学びも含めて)を語れるよう、ファシリテーションすることが重要となってきます。
この経験の分かち合いには、以下のような力があります。
- 孤独感の軽減:「自分だけじゃないんだ」という安心感を与える。
- 希望の提示:困難を乗り越えた人の話は、「自分にもできるかもしれない」という希望に繋がる。
- ロールモデルとしての機能:具体的な対処法や考え方のヒントになる。
- 共感の深化:お互いの理解が深まり、より強い繋がりが生まれる。
あくまで相手が主役であり、ピアサポーターの経験は、相手を勇気づけ、支えるための「素材」として提供されるべきです。また、アドバイスや指示ではなく、「私の場合はこうだった」という一つの事例として語ることが大切です。
ステップ4:相手の力を引き出すエンパワーメント
ピアサポートの最終的な目標の一つは、相手が本来持っている力を引き出し、主体的に問題解決に取り組めるように支援すること(エンパワーメント)です。
ピアサポーターが問題を解決してあげるのではなく、相手自身が解決策を見つけ、行動できるように後押しすることを意味します。
エンパワーメントを促す関わり方としては、以下のようなものがあります。
- 強みやリソース(活用できる資源)に焦点を当てる:相手が持っている良い点や、利用できるサポート(家族、友人、制度など)に気づかせる。
- 小さな成功体験を積み重ねる支援:達成可能な小さな目標を設定し、その達成を共に喜ぶ。
- 自己決定を尊重する:最終的な判断や選択は相手自身が行えるように、情報提供はするが決定は委ねる。
- 肯定的なフィードバック:相手の努力や前向きな変化を認め、言葉で伝える。
- 選択肢の提示:一つの考え方や方法に固執せず、様々な可能性を示す。
ピアサポーターには、相手が自信を取り戻し、「自分にはできる」と感じられるように、伴走者として寄り添い、励まし続ける存在となることが求められます。
このエンパワーメントのプロセスを通じて、当事者は真のリカバリー(回復)へと歩みを進めていくのです。
ピアサポートの主な種類と活動形態を知ろう
ピアサポートは、その目的や対象者、運営主体によって様々な形で行われています。ここでは、代表的な種類と活動形態をいくつか紹介します。自分に合った関わり方を見つける参考にしてください。
1対1の個別サポート
ピアサポーターと支援を必要とする人が1対1で関わる形式です。
じっくりと時間をかけて個別の話を聞いたり、情報提供を行ったりするのに適しています。例えば、退院後の生活に不安を抱える人に対して、同じ経験を持つピアサポーターが定期的に訪問して相談に乗る、といった形があります。
メリット
- プライベートな内容も話しやすい。
- 個別のニーズに合わせたきめ細やかな支援が可能。
- 深い信頼関係を築きやすい。
留意点
- ピアサポーターの負担が大きくなる可能性がある。
- 相性の問題が生じやすい。
- 一人のピアサポーターの経験や価値観に影響されやすい。
個別サポートは、特に他の人との交流が苦手な方や、よりパーソナルな支援を求める方に有効な場合があります。
グループミーティング・自助グループ
グループミーティング・自助グループは、同じような課題や経験を持つ複数の人が集まり、定期的にミーティングを行う形式です。参加者同士が自由に自分の経験や思いを語り合い、互いに支え合います。アルコール依存症の自助グループであるAA(アルコホーリクス・アノニマス)などが有名ですが、その他にも様々な分野で自助グループが活動しています。
メリット:
- 多様な経験や考え方に触れることができる。
- 仲間意識が芽生えやすく、孤独感が軽減される。
- 他の参加者の姿がロールモデルとなる。
- 運営コストを抑えやすい。
留意点:
- 大人数の前で話すのが苦手な人にはハードルが高い場合がある。
- グループ内の力関係や人間関係に配慮が必要。
- ファシリテーター(進行役)の力量がグループの質に影響する。
自助グループは、「分かち合い」と「仲間づくり」を重視する活動形態と言えるでしょう。多くのグループでは、匿名性を保ち、言いっぱなし・聞きっぱなし(アドバイスや批判をしない)といったルールが設けられています。
ピアスタッフとしての活動
近年、医療機関や福祉施設、行政機関などで、ピアサポートの経験を持つ当事者が「ピアスタッフ」として雇用され、専門職と協働して支援にあたるケースが増えています。ピアスタッフは、自身の経験を活かして、他の当事者への相談支援、プログラムの企画・運営、専門職への橋渡しなど、多岐にわたる役割を担います。
メリット:
- 当事者の視点を専門的な支援に取り入れることができる。
- 専門職と当事者の間のコミュニケーションを円滑にする。
- 当事者にとってより身近で信頼しやすい相談相手となる。
- ピアスタッフ自身のリカバリーや社会参加にも繋がる。
留意点:
- 専門職との役割分担や連携が重要。
- ピアスタッフの研修やサポート体制の整備が必要。
- 雇用条件や処遇に関する課題。
ピアスタッフの導入は、従来の支援に新たな風を吹き込み、より利用者本位のサービス提供を促進するものとして期待されています。
厚生労働省は、障害福祉サービス等におけるピアサポート専門員の養成や配置に関する検討を進めています。
オンラインでのピアサポート
インターネット技術の発展に伴い、オンライン上でのピアサポート活動も活発になっています。SNSのグループ、オンラインミーティングツール(Zoomなど)、専用の掲示板やチャットアプリなどを活用し、地理的な制約を超えて繋がることができます。
メリット:
- 地方在住者や外出が困難な人も参加しやすい。
- 匿名性が保ちやすく、本音を話しやすい場合がある。
- 時間や場所を選ばずにアクセスできる。
- 多様なバックグラウンドを持つ人と繋がれる可能性がある。
留意点:
- 非言語的なコミュニケーションが伝わりにくく、誤解が生じやすい。
- インターネット環境やITスキルが必要。
- 情報セキュリティやプライバシー保護への配慮がより一層求められる。(関連:総務省「国民のための情報セキュリティサイト」)
- 誹謗中傷などのトラブルリスク。
オンラインピアサポートは、手軽さやアクセスのしやすさから、今後ますますその重要性が増していくと考えられます。対面でのサポートとオンラインサポートを組み合わせることで、より多くのニーズに応えることも可能です。
ピアサポーターに求められる心構えと大切なスキル
ピアサポーターとして活動するためには、特別な資格が必ずしも必要とされるわけではありませんが、効果的で倫理的な支援を行うためには、いくつかの重要な心構えとスキルを身につけておくことが望ましいです。これらは、ピアサポートの質を高め、参加者にとっても支援者にとってもより良い経験となるために不可欠です。
ここでは、ピアサポーターに特に求められる5つのポイントを解説します。
受容と尊重の姿勢を持つ
ピアサポートの基本は、相手をありのままに受け入れ、尊重する姿勢です。
相手の価値観や考え方、経験を、自分のものさしで判断したり、評価したりすることは避けなければなりません。「それは間違っている」「普通はこうするべきだ」といった言葉は、相手を追い詰めてしまう可能性があります。
たとえ自分とは異なる意見や感情であっても、まずは「そう感じているんですね」「そういう考え方もあるんですね」と一度受け止めること(受容)が大切です。そして、一人の人間として、その人の存在そのものを尊重する気持ちを持つことが、信頼関係の第一歩となります。
この受容と尊重の姿勢があって初めて、相手は安心して心を開き、自分のことを語り始めることができるのです。
経験を適切に伝えるコミュニケーション力
ピアサポーターの強みは、自身の「経験」です。しかし、その経験をただ話せば良いというわけではありません。相手の状況やニーズに合わせて、経験を適切に選び、分かりやすく伝えるコミュニケーション力が求められます。
具体的には、以下のような点に留意する必要があります。
- 相手の話を十分に聴いた上で、自分の経験を語るタイミングを見極める。
- 自慢話や説教にならないように気をつける。
- 抽象的な話ではなく、具体的なエピソードを交えて語る。
- 相手が共感しやすいように、自分の感情も率直に伝える。
- あくまで「自分の場合はこうだった」という一つの例として提示し、相手に同じことを強要しない。
また、言葉遣いや表現方法にも配慮し、相手を傷つけたり、不快な思いをさせたりしないように注意することが重要です。
自分の経験を「武器」ではなく、相手を勇気づける「贈り物」として届けられるようなコミュニケーションを心がけましょう。
守秘義務と倫理的配慮を徹底する
ピアサポートの場では、非常に個人的でデリケートな情報が共有されることがあります。そのため、知り得た情報を絶対に外部に漏らさないという「守秘義務」を徹底することは、ピアサポーターとしての最も基本的な責務です。(個人情報保護法に基づき、個人情報の適切な取り扱いが求められます。)
守秘義務の遵守は、参加者が安心して自分のことを話せる「安全な場」を保証するための大前提です。万が一、情報が漏洩してしまえば、参加者は深い傷を負い、ピアサポート活動そのものへの信頼も失墜してしまいます。グループ活動の場合は、参加者全員で守秘義務の重要性を確認し合うことが不可欠です。
さらに、守秘義務以外にも、プライバシーの尊重、差別や偏見の排除、利益相反の回避など、様々な倫理的な配慮が求められます。つまり、ピアサポーターは、常に高い倫理観を持ち、誠実な態度で活動に臨む必要があるのです。
もし倫理的なジレンマに直面した場合は、一人で判断せず、スーパーバイザーや所属団体に相談することが重要です。この点については、先の「ピアサポートの課題と注意点」でも触れましたね。
バウンダリー(境界線)を意識する
「バウンダリー」とは、自分と他者との間に引かれる適切な境界線のことです。ピアサポートにおいては、このバウンダリーを意識し、維持することが非常に重要になります。バウンダリーが曖昧になると、以下のような問題が生じる可能性があります。
- 共感しすぎて相手の問題に巻き込まれ、自分自身が疲弊してしまう(感情の混同)。
- 相手のプライベートに過度に踏み込んでしまう。
- ピアサポーターが相手をコントロールしようとしたり、逆に相手から過度に依存されたりする(共依存のリスク)。
- 支援関係が個人的な関係に発展し、適切な距離感が保てなくなる。
ピアサポーターは、相手に寄り添いつつも、「自分は自分、相手は相手」という明確な区別を常に意識する必要があります。
例えば、活動時間外の個人的な連絡は控える、金銭の貸し借りはしない、プライベートな領域に深入りしすぎない、といった具体的なルールを設けることも有効です。
適切なバウンダリーを保つことは、ピアサポーター自身を守り、健全で持続可能な支援関係を築くために不可欠です。
継続的な学びと自己成長を続ける
ピアサポートは、一度スキルを身につければ終わりというものではありません。社会状況や人々のニーズは常に変化しており、ピアサポーター自身も、常に新しい知識やスキルを学び続け、自己成長していく姿勢が求められます。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
- 関連分野の研修会や勉強会への参加。(各省庁や地方自治体、関連団体が主催・後援する研修情報も確認するとよいでしょう。例:WAM NET(福祉医療機構)などで研修情報が検索できる場合があります。)
- ピアサポートに関する書籍や論文を読む。
- 他のピアサポーターとの情報交換や学び合い。
- スーパービジョン(経験豊富な指導者からの助言や指導)を定期的に受ける。
- 自身の活動を振り返り、改善点を見つける(セルフリフレクション)。
特にスーパービジョンは、客観的な視点から自分の関わり方を見直したり、困難なケースへの対応方法を相談したりする上で非常に有効です。
こうした継続的な学びを通じて、ピアサポーターはより質の高い支援を提供できるようになり、また、活動のモチベーションを維持し、バーンアウトを防ぐことにも繋がります。
【分野別】ピアサポートの具体的な活動事例
ピアサポートは、実に様々な分野でその力を発揮しています。
ここでは、代表的な分野を取り上げ、それぞれの現場でどのようなピアサポート活動が行われているのか、具体的な事例を交えながら紹介します。これらの事例を通じて、ピアサポートの多様性と可能性を感じていただければと思います。ご紹介する分野は以下の通りです。
- 精神障害
- 発達障害
- 身体障害
- がん・難病
- 依存症
- ひきこもり
- その他(子育て・介護・グリーフケアなど)



それぞれの分野で、当事者の方々がどのように支え合い、困難を乗り越えようとしているのかを見ていきましょう。
精神障害:リカバリー支援・当事者研究・リカバリーカレッジの例
精神障害のある方々にとって、ピアサポートはリカバリー(自分らしい生き方を取り戻すプロセス)を支える上で非常に重要な役割を果たしています。同じような苦しみや生きづらさを経験した仲間との出会いは、孤独感を和らげ、希望を与えてくれます。
具体的な活動例としては、以下のようなものがあります。
- 当事者会・家族会:定期的に集まり、自由に語り合う場。情報交換や悩み相談、レクリエーション活動などを行う。
- ピアカウンセリング:ピアサポーターが1対1で相談に応じる。
- 当事者研究:自分自身の困難や特性について、仲間と共に研究し、理解を深め、対処法を見つけていく活動。例えば、「幻聴とのつきあい方」「気分の波をどう乗りこなすか」といったテーマで、当事者ならではの知恵や工夫を共有します。(参照:べてるの家 「当事者研究」などで検索)
- リカバリーカレッジ:精神疾患や生きづらさを抱える人が、リカバリーに必要な知識やスキルを仲間と共に学ぶ場。当事者と専門職が共同でプログラムを運営することが多い。例えば、ストレス対処法、コミュニケーションスキル、WRAP(元気回復行動プラン)などを学びます。(参照:みんなのリカバリーカレッジ構想 「リカバリーカレッジとは」などで検索)
- ピアスタッフとしての活動:精神科病院や地域活動支援センターなどで、自身の経験を活かして他の当事者を支援する。
これらの活動は、当事者が主体的にリカバリーの道を歩むための大きな力となっています。
発達障害
発達障害(ASD:自閉スペクトラム症、ADHD:注意欠如・多動症など)のある方やそのご家族にとっても、ピアサポートは重要な支えです。特有の困難さや生きづらさを共有し、理解し合える仲間がいることは、大きな安心感につながります。
活動例としては、以下のようなものがあります。
- 当事者グループ・ペアレントメンター:発達障害のある当事者同士が集まるグループや、発達障害のある子を持つ親同士が支え合うペアレントメンター活動。日々の困りごとや工夫、利用できる社会資源などの情報を交換したり、感情を共有したりします。
- SST(ソーシャルスキルトレーニング)グループ:コミュニケーションや対人関係のスキルを、仲間と共に練習しながら学ぶ。ピアサポートの要素を取り入れている場合も多い。
- 発達障害の特性理解を深める勉強会やワークショップ:当事者や家族が主体となって企画・運営することもある。
- 就労支援におけるピアサポート:発達障害のある人が働き続けるための工夫や悩みを共有し、支え合う。
発達障害の特性は多様であり、一人ひとり抱える困難も異なります。ピアサポートの場では、それぞれの経験を尊重し合いながら、「自分だけじゃないんだ」「こうすれば少し楽になるかもしれない」といった気づきや勇気を得ることができます。
身体障害
身体障害のある方々にとって、ピアサポートは、障害受容のプロセスや社会参加、権利擁護など、様々な面で重要な役割を果たします。同じ障害を持つ仲間との出会いは、孤立を防ぎ、新たな可能性を発見するきっかけとなります。
活動例としては、以下のようなものがあります。
- 障害種別の当事者団体・患者会:例えば、脊髄損傷者の会、視覚障害者の会、聴覚障害者の会などがあり、情報交換、権利擁護活動、レクリエーション、福祉機器の利用に関する情報共有などを行っています。
- ピアカウンセリング:障害を受傷したばかりの人や、生活上の困難を抱える人に対して、同じ障害を持つ先輩が相談に乗ったり、アドバイスをしたりします。
- 自立生活センター(CIL)での活動:障害のある当事者が主体となって運営され、ピアカウンセリングや介助者派遣、権利擁護活動などを通じて、障害者の地域での自立生活を支援します。(参照:全国自立生活センター協議会などで検索)
- スポーツや文化活動を通じた交流:パラリンピック競技や障害者アートなど、共通の趣味や活動を通じて仲間と繋がり、自己表現の場を得る。
これらの活動を通じて、障害のある方々は、障害と共に自分らしく生きるための知恵や勇気を得ています。
がん・難病
がんや難病といった診断を受けた方やそのご家族は、病気そのものによる身体的な苦痛だけでなく、将来への不安、治療の副作用、社会からの孤立感など、様々な困難に直面します。このような状況において、同じ病気や経験を持つ仲間とのピアサポートは、計り知れない心の支えとなります。
活動例としては、以下のようなものがあります。
- 患者会・家族会:同じ病気の患者や家族が集まり、闘病体験、治療に関する情報、副作用対策、心のケアなどについて語り合い、支え合います。全国規模の大きな団体から、地域や病院ごとの小さなグループまで様々です。
- ピアサポーターによる相談支援:がん相談支援センターや患者サロンなどで、研修を受けたがん経験者や難病経験者が、患者や家族の相談に応じます。治療選択の悩み、副作用の辛さ、家族との関係など、多岐にわたる相談に対応します。
- オンラインコミュニティ:インターネット上の掲示板やSNSグループなどで、時間や場所を選ばずに情報交換や悩み相談ができる場。
- アピアランスケア(外見ケア)に関する情報交換:治療による脱毛や肌の変化など、外見の変化に関する悩みや工夫を共有し合う。
特に、がんや難病の治療は長期にわたることが多く、精神的なサポートが不可欠です。ピアサポートは、「ひとりではない」という安心感を与え、治療に前向きに取り組む力や、病気と共生していく希望を与えてくれます。
依存症
アルコール、薬物、ギャンブルなどの依存症からの回復において、ピアサポート、特に自助グループの役割は非常に大きいと言われています。依存症は「孤立の病」とも言われ、一人で抱え込んでいると回復が難しいとされていますが、同じ苦しみを経験し、回復を目指す仲間との繋がりが、その状況を打破する力となります。
代表的な活動としては、以下のようなものがあります。
- 自助グループ(セルフヘルプグループ):AA(アルコホーリクス・アノニマス:アルコール依存症)、NA(ナルコティクス・アノニマス:薬物依存症)、GA(ギャンブラーズ・アノニマス:ギャンブル依存症)などが世界的に有名です。これらのグループでは、12ステッププログラムなどを用いながら、匿名で自分の経験を語り合い、仲間からの共感や励ましを得て、依存症からの回復を目指します。
- 家族のための自助グループ:アラノン(アルコール依存症者の家族・友人)、ナラノン(薬物依存症者の家族・友人)、ギャマノン(ギャンブル依存症者の家族・友人)など、依存症者の家族や友人が集まり、互いの経験を分かち合い、支え合うグループもあります。
- 回復支援施設におけるピアサポート:ダルク(DARC)などの民間リハビリ施設では、回復した当事者がスタッフとして働き、入所者の回復を支援するピアサポートが積極的に行われています。(参照:日本DARC 「DARCとは」などで検索)
依存症からの回復は長い道のりですが、仲間と共に「今日一日だけ(Just for today)」を積み重ねていくことが、ピアサポートの重要なメッセージとなっています。
ひきこもり
ひきこもり状態にある方やそのご家族にとって、社会との繋がりが途絶えがちな中で、ピアサポートは孤立感を和らげ、社会復帰への第一歩を踏み出すきっかけとなり得ます。安心して自分の気持ちを話せる場、同じような経験を持つ仲間と出会える場があることは、大きな意味を持ちます。
活動例としては、以下のようなものがあります。
- ひきこもり当事者の居場所・フリースペース:当事者が安心して過ごせる場所を提供し、ゲームや趣味活動、語り合いなどを通じて緩やかな繋がりを育む。ピアスタッフが運営に関わっていることも多い。
- 当事者会・家族会:ひきこもり経験者やその家族が集まり、悩みを共有したり、情報交換をしたりする。
- 訪問支援におけるピアサポート:ひきこもり経験のあるピアサポーターが、現在ひきこもり状態にある人の自宅を訪問し、対話を通じて関係性を築き、外出や社会参加への動機づけを行う。
- オンラインでの交流:SNSやオンラインゲームなどを通じて、自宅にいながら仲間と繋がる。
ひきこもりの背景や状況は一人ひとり異なります。ピアサポートでは、それぞれのペースを尊重し、「無理強いしない」「否定しない」という姿勢が特に重要視されます。小さな成功体験を積み重ねながら、少しずつ自信を取り戻していくプロセスを支えます。
その他(子育て・介護・グリーフケアなど)
ここまで紹介した分野以外にも、ピアサポートは様々な場面で活用されています。
- 子育て支援:育児の悩みや不安を共有する母親(父親)サークル、ひとり親家庭のピアサポートグループ、障害のある子を持つ親の会など。経験を分かち合い、孤立しがちな育児期を支え合います。(関連:内閣府「子ども・子育て支援新制度」、各自治体の子育て支援センター)
- 介護者支援:認知症の家族を介護する人のための「家族の会」、ヤングケアラー(若くして家族の介護を担う子ども・若者)のピアサポートグループなど。介護の負担やストレスを共有し、情報交換や精神的なサポートを行います。(関連:厚生労働省「介護保険制度」、ヤングケアラー支援に関する国の取り組み)
- グリーフケア:大切な人を亡くした遺族が集まり、悲しみや喪失感を分かち合い、互いに支え合う「わかちあいの会」など。同じ経験をした仲間だからこそ理解できる感情があり、それが癒やしに繋がります。
- LGBTQ+のコミュニティ:セクシュアルマイノリティの当事者が集まり、カミングアウトの悩み、社会的な困難、パートナーシップなどについて語り合い、支え合う場。(関連:法務省「性的指向・性自認に関する啓発活動」、各自治体の取り組み)
- 犯罪被害者支援:同じような犯罪被害に遭った人々が集まり、トラウマや心の傷を共有し、回復への道のりを支え合う。(関連:警察庁「犯罪被害者等施策」、各都道府県の犯罪被害者支援センター)
このように、人生における様々な困難やライフイベントにおいて、共通の経験を持つ仲間との支え合いは、大きな力となり得るのです。あなたの周りにも、きっと何らかの形でピアサポート活動が行われているはずです。
ピアサポートを深く学び、関わるための情報やおすすめの本
ピアサポートについて理解を深め、実際に活動に参加したり、あるいは自らピアサポーターとして誰かを支えたいと考えたりする方もいらっしゃるでしょう。
このセクションでは、ピアサポートについてさらに深く学び、関わっていくための具体的な情報源や方法についてご紹介します。研修や資格、参考になる書籍や団体、そして実際にサポートを受けたい・参加したい場合の相談先など、あなたの次の一歩に繋がる情報が見つかるかもしれません。
ここで取り上げる主な内容は以下の通りです。
- 学習の機会:ピアサポーターとしての知識やスキルを学べる講座や研修。
- 資格について:ピアサポート関連の資格の有無やその意義。
- 情報収集:参考になる書籍や信頼できる団体のウェブサイト。
- 相談窓口:実際にピアサポートを受けたい、またはグループに参加したい場合の探し方。



皆さんとピアサポートの関わりをもっと豊かにするために、今は難しい内容も多いかもしれませんが、心のどこかに留めておいていただけると良いでしょう。
ピアサポーターになるために受けたい講座や研修
ピアサポーターとして活動する上で、必ずしも特定の資格が必須とされるわけではありませんが、より質の高い支援を提供するため、また倫理的な配慮を学ぶためには、専門的な講座や研修を受けることが非常に有益です。これらの研修では、ピアサポートの基本的な理念、傾聴や共感のスキル、グループ運営のノウハウ、守秘義務やバウンダリーの重要性などを体系的に学ぶことができます。
講座や研修は、以下のような場所で提供されていることがあります。
- NPO法人や当事者団体:各分野(精神障害、がん、依存症など)の専門的なNPO法人や当事者団体が、独自のピアサポーター養成研修を実施している場合があります。
- 地方自治体や関連機関:都道府県や市区町村、保健所、精神保健福祉センターなどが、地域住民向けにピアサポートに関する研修会や講演会を開催することがあります。(例:厚生労働省の委託事業として実施される研修もあります。)
- 医療機関や福祉施設:一部の病院や福祉施設では、院内や施設内で活動するピアサポーターを養成するための研修を行っています。
- 大学や専門学校:福祉系や心理系の学部・学科で、ピアサポートに関する講義や演習が行われている場合があります。
- オンライン講座:近年では、オンラインで受講できるピアサポート関連の講座も増えてきています。場所を選ばずに学べるメリットがあります。
研修の内容や期間、費用は様々ですので、ご自身の関心のある分野や活動したい地域で、どのような研修が提供されているか調べてみると良いでしょう。
例えば、「〇〇県 ピアサポーター 養成研修」「精神障害 ピアサポート 講座」といったキーワードで検索すると、情報が見つかるかもしれません。
ピアサポートに資格は必要?種類と取得のメリット
「ピアサポートを行うのに資格は必要なの?」という疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。結論から言うと、現時点では、ピアサポート活動全般をカバーする国家資格のような統一された資格制度は存在しません。多くの場合、ピアサポーターとして活動するために特定の資格が法的に義務付けられているわけではありません。
しかし、一部の分野や団体では、独自の認定資格制度を設けている場合があります。例えば、以下のようなものです。
- 特定の疾患や障害に関するピアサポーター認定:がん患者支援団体や発達障害支援団体などが、独自の研修プログラムを修了した人に対して認定証を発行するケース。
- 特定の支援技法に関する認定:例えば、WRAP(元気回復行動プラン)のファシリテーター認定など。
これらの民間資格を取得するメリットとしては、以下のような点が考えられます。
- 専門的な知識やスキルを体系的に習得できる。
- 一定水準の能力があることの証明となり、活動の信頼性が高まる。
- 同じ資格を持つ仲間とのネットワークが広がる。
- 求人や活動の機会を得やすくなる場合がある。
ただし、資格がなくても、自身の経験と誠実な姿勢があれば、ピアサポート活動は可能です。資格取得を目指すかどうかは、ご自身の活動目的や学びたい内容に応じて判断すると良いでしょう。
重要なのは、資格の有無よりも、常に学び続ける姿勢と、相手に寄り添う心です。
ピアサポートについて学べるおすすめの本【レベル別・分野別】
ピアサポートについてより深く学びたい、あるいは信頼できる情報を得たいという方のために、参考になる書籍や関連団体のウェブサイトをいくつかご紹介します。これらはあくまで一例であり、ご自身の関心分野に応じてさらに探求してみてください。
1. ピアサポートの概論書:ピアサポートの歴史、理念、基本的な方法論などを解説した入門書や専門書
- 書籍名: 『ピアサポートの基本と実際 第2版』
- 著者名: 蔭山正子、信田さよ子 編
- 出版社名: 金剛出版
- 備考: ピアサポートの基礎から実践までを網羅的に解説しており、入門書としても専門書としても評価が高い一冊です。
- 書籍名: 『よくわかるピアサポート』
- 著者名: 野中太久磨、萱間真美 編著
- 出版社名: ミネルヴァ書房
- 備考: 様々な分野でのピアサポートの実践例も交えながら、分かりやすく解説されています。
- 書籍名: 『当事者主体の支援のためのWRAP入門―自分でつくる自分のためのリカバリープラン』
- 著者名: メアリー・エレン・コープランド 著、増川ねてる、藤田英親 訳
- 出版社名: 金剛出版
- 備考: ピアサポートと親和性の高いWRAP(元気回復行動プラン)の考え方と実践方法を学べる代表的な書籍です。
2. 各分野のピアサポート実践書:精神障害、がん、依存症など、特定の分野におけるピアサポートの具体的な事例やノウハウを紹介した書籍
- 【精神障害分野】
- 書籍名: 『べてるの家の「当事者研究」―悩みもべてるのつきあい方』
- 著者名: 浦河べてるの家
- 出版社名: 医学書院
- 備考: 当事者研究というユニークなアプローチを通じて、精神障害のある人たちがリカバリーしていくプロセスを描いています。
- 書籍名: 『精神科ピアサポートの実際―当事者が当事者を支援するということ』
- 著者名: 日本精神科看護協会ピアサポーター活動推進委員会 編
- 出版社名: 医学書院
- 備考: 精神科医療の現場におけるピアサポートの実践や課題についてまとめられています。
- 書籍名: 『べてるの家の「当事者研究」―悩みもべてるのつきあい方』
- 【がん分野】
- 書籍名: 『がん体験者のためのピアサポートガイドブック―仲間と支えあい、自分らしく生きるために』
- 著者名: 特定非営利活動法人キャンサーネットジャパン 監修
- 出版社名: 金原出版
- 備考: がん患者さんやその家族がピアサポートを行う際、また受ける際の具体的なノウハウや心構えが書かれています。
- 書籍名: 『がん体験者のためのピアサポートガイドブック―仲間と支えあい、自分らしく生きるために』
- 【依存症分野】
- 書籍名: 『依存症からの回復支援ワークブック―12ステップと認知行動療法ワークブック』
- 著者名: 松本俊彦 監修、今村扶美、小林桜児、長徹二 著
- 出版社名: 金剛出版
- 備考: 依存症からの回復プログラムにおいて、ピアサポートの要素も重視される中で、当事者自身が取り組めるワークブック形式になっています。
- 書籍名: 『依存症からの回復支援ワークブック―12ステップと認知行動療法ワークブック』
3. 当事者の手記や体験談:ピアサポートを通じてリカバリーした人の体験談や、ピアサポーターとして活動する人の思いが綴られた書籍
- 書籍名: 『「助けて」と言える国へ―人と社会をつなぐ』
- 著者名: 大空幸星
- 出版社名: 扶桑社
- 備考: NPO法人「あなたのいばしょ」の活動を通じて、孤独や孤立の問題に取り組む著者の思いや、相談者との関わりが描かれています。ピアサポート的な要素も多く含んでいます。
- 書籍名: 『つながりゆるりと―私の精神科ダイアローグ実践ストーリー』
- 著者名: 石原孝二
- 出版社名: 日本評論社
- 備考: 精神科医である著者が、オープンダイアローグという対話を通じたアプローチを実践する中で、当事者との関わりやその中での気づきを綴っています。ピアサポート的な視点も感じられます。
これらの情報源を活用し、ピアサポートに関する知識を深め、信頼できる情報に基づいて行動することが大切です。
ピアサポートを受けたい・参加したい時の相談先
実際にピアサポートを受けたい、あるいはピアサポートグループに参加してみたいと考えた場合、どこに相談すれば良いのでしょうか。身近な相談先としては、以下のような場所が考えられます。
- かかりつけの医療機関(医師、看護師、ソーシャルワーカーなど):通院している病院やクリニックのスタッフに相談してみると、院内や地域のピアサポート活動に関する情報を提供してくれることがあります。
- 地域の相談支援機関:
- 精神保健福祉センター:各都道府県・政令指定都市に設置されており、精神保健福祉に関する相談に応じています。(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づき設置)
- 保健所・保健センター:市町村に設置されており、地域住民の健康相談に応じています。(地域保健法に基づき設置)
- 相談支援事業所(障害福祉サービス):障害のある方の生活全般に関する相談に応じ、必要なサービス利用のサポートを行います。(障害者総合支援法に基づき指定)
- がん相談支援センター:全国のがん診療連携拠点病院などに設置されており、がんに関する様々な相談に対応しています。(がん対策基本法に基づき整備)
- 当事者団体やNPO法人:関心のある分野の当事者団体やNPO法人に直接問い合わせてみるのも一つの方法です。ウェブサイトなどで活動内容や参加方法を確認できます。
- インターネットでの検索:「〇〇(地域名) 〇〇(課題名) ピアサポート」「〇〇(課題名) 自助グループ」などのキーワードで検索すると、関連する情報が見つかることがあります。(厚生労働省の「悩みの相談窓口」や各自治体のウェブサイトでも、相談窓口の一覧が掲載されている場合があります。)
相談する際には、どのようなサポートを求めているのか、どのような活動に興味があるのかを具体的に伝えると、より適切な情報や紹介を得やすくなります。また、見学や体験参加ができるグループも多いので、まずは一度足を運んでみて、雰囲気を感じてみるのも良いでしょう。
自分に合ったピアサポートの形を見つけることが、次の一歩に繋がります。
まとめ
この記事では、「ピアサポート」という温かい支え合いの形について、その基本的な意味や定義から、具体的な方法、期待される効果、さらには活動する上での注意点や関連情報まで、幅広く掘り下げてきました。
ピアサポートの本質は、同じような経験を持つ「仲間(ピア)」同士が、対等な立場で互いの経験を分かち合い、支え合うことにあります。
とても長い記事になってしまいましたが、ピアサポートが現代社会の孤独や孤立に寄り添い、「エンパワーメント(力を引き出すこと)」と「リカバリー(自分らしい生き方を取り戻すこと)」を力強く後押しする可能性を秘めていることを理解いただけたのではないでしょうか。
孤独感が和らぎ、自己肯定感が高まり、問題解決への主体性が回復するなど、個人にもたらされるメリットは計り知れません。さらに、その効果は社会全体にも広がり、相互理解を深め、より寛容な社会を築く一助となり得ます。
一方で、ピアサポートは万能ではなく、その限界や課題、注意点も存在します。支援者自身のバーンアウトや、不適切な関係性のリスク、質の担保といった課題に真摯に向き合い、倫理的な配慮を怠らないことが、持続可能で健全なピアサポート活動には不可欠です。
もしあなたが今、何らかの困難を抱え、「誰かにこの気持ちを分かってほしい」と感じているなら、ピアサポートという選択肢があることを思い出してください。また、もしあなたが過去の経験を誰かのために役立てたいと考えているなら、ピアサポーターとしての道があるかもしれません。
この記事が、あなたとピアサポートとの出会いのきっかけとなり、あなたが孤独から解放され、希望を持って未来へ踏み出すための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。



まずは小さな一歩から、あなたに合ったピアサポートの形を探してみてくださいね!
- 内閣官房 孤独・孤立対策推進室の調査報告
- 厚生労働省 ピアサポート
- 厚生労働省 ピアサポートに関する研修事業や普及啓発の取り組み
- 厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」総合サイト
- 厚生労働省「発達障害情報・支援センター」
- 文部科学省「特別支援教育」
- 障害者総合支援法(厚生労働省)
- がん対策基本法(厚生労働省)
- 難病の患者に対する医療等に関する法律(厚生労働省)
- 厚生労働省「依存症対策」
- 厚生労働省「ひきこもり支援推進事業」
- 法務省「人権擁護局」
- 公認心理師は国家資格(厚生労働省)
- 内閣官房 孤独・孤立対策推進室
- 厚生労働省「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(PDF)
- 厚生労働省「地域共生社会」の実現に向けた取り組み
- 法務省「人権啓発活動」
- 厚生労働省「地域力強化検討会」
- 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(PDF)
- 厚生労働省 ピアサポーター養成研修に関する情報提供や事業
- 個人情報保護法(個人情報保護委員会)
- 法務省人権擁護局の人権相談や啓発活動
- 個人情報保護委員会のガイドライン
- 厚生労働省のウェブサイト(こころの病気の自助グループ・家族会など)
- 厚生労働省 障害福祉サービス等におけるピアサポート専門員の養成や配置に関する検討
- 総務省 情報通信白書
- 総務省「国民のための情報セキュリティサイト」
- 日本国憲法(第3章 国民の権利及び義務)
- 法務省 人権擁護
- WAM NET(福祉医療機構)
- 厚生労働省「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」
- 厚生労働省「発達障害者支援」
- 国立がん研究センターがん情報サービス
- 難病情報センター
- 厚生労働省「依存症対策全国センター」
- 内閣府「子ども・子育て支援新制度」
- 厚生労働省「介護保険制度」
- ヤングケアラー支援に関する国の取り組み(厚生労働省)
- 法務省「性的指向・性自認に関する啓発活動」
- 警察庁「犯罪被害者等施策」
- 厚生労働省 ピアサポート(精神障害)
- 国立国会図書館のウェブサイト
- 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(e-Gov法令検索)
- 地域保健法(e-Gov法令検索)
- 障害者総合支援法(e-Gov法令検索)
- がん対策基本法(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省「悩みの相談窓口」